第254回 意匠学会研究例会 発表要旨
■1980年代以降にみる花結びの伝承
矢島 由佳/大阪大学大学院博士後期課程
花結びは、紐を用いた装飾結びで、日本の伝統文化の一つとして認識され、女子の手ずさみや平安時代の高貴な女性の教養の一つであったとして、『源平盛衰記』に言及の上、記されてきた。このような言説は江戸時代から現代まで花結びを紹介する文章に度々見られ、花結びはかつて身分の高い女性の嗜みであったというイメージが人々に流布してきた。しかしながら、その文化の伝承過程は十分に明らかにされておらず、今日の花結びの伝承に関する一般理解として、花結びは茶道や香道の系譜に位置付けられる伝統工芸の一種だと理解されることが多い。一方、1980年代以降の花結びの伝承に着目すると、花結び愛好家が増えたのは、カルチャーセンターにおいて女性が花結びを学ぶようになったことが大きいということが調査の結果明らかになった。そのような潮流において、江戸時代の史料を元に復元した茶道に由来する花結びに加えて、新たな花結びも次々に考案されていった。そこで本発表は、主に1980年代以降の花結びの伝承に焦点をあて、花結びがカルチャーセンターにおける手作りという一つの消費活動として女性たちに受容され、伝承がなされてきた様相を新聞記事等のアーカイブ分析、インタビュー内容を元に明らかにすることを試みる。さらに、雑誌『装苑』および『ドレスメーキング』を分析対象とし、1980年前後の手芸文化に花結びという一つの手芸をどのように関連づけて捉えることができるかについても考察を試みる。また、花結びが文化としてどのように受容されてきたかを示すために、花結びの展示および美術館および博物館における収蔵状況についても分析する。以上の一連の考察により、従来明らかにされてこなかった1980年代以降にみる花結びの伝承の様相を示すことができると考える。
■デザイン史研究と教育
橋本啓子(近畿大学)高安啓介(大阪大学)
意匠学会は「デザイン史」を専門とする研究者が多くかかえ「デザイン史」を主要な関心事の一つとする学会であると言える。そこで、以下のような話題について一人5分くらいの話題を持ち寄って、対面で意見を交わす機会を持ちたい。① デザイン史(工芸史・建築史・服飾史なども含む)にかかわる授業シラバスの比較検討。 ② 研究者たちは、美術史・工芸史・デザイン史の違いや関係をどう考えているか。③ デザイン史研究において通史はどのような意味を持つのか。歴史とは何かという問い。④ 一般教養としてデザイン史を教えることの意味。デザイン教育においてデザイン史を教えることの意味。⑤ デザインの通史をどう語るのか。デザインの通史をどう教えるのか。デザイン史のスタンダードはありうるのか。⑥ 教育を念頭においた上でのデザイン史研究のこれから。