第252回 意匠学会研究例会 発表要旨

■デンマーク主要家具ブランドにおける製品ラインナップの変化について
多田羅 景太/京都工芸繊維大学

 日本で「北欧デザイン」というワードが定着して久しい。2022年7月23日から10月9日にかけて東京都美術館で開催された「フィン・ユールとデンマークの椅子」展は記憶に新しいが、会期中約6万5千人の来場者が訪れ、独自の企画展としては非常に高い注目を集めた。これは北欧デザインの中核をなすデンマークの家具デザインが、社会的にも広く認知されていることの表れといえよう。
 本展覧会は、デンマークを代表する家具デザイナーであるフィン・ユール(1912-1989)の作品を中心に、ハンスJ.ウェグナー(1914-2007)、ボーエ・モーエンセン(1914-1972)、アルネ・ヤコブセン(1902-1971)、ポール・ケアホルム(1929-1980)ら20世紀中期に活躍した家具デザイナーや建築家による作品で構成されていたが、2000年以降にデザインされた作品はサルト&シグスゴーによってデザインされたカウンシルチェア(2010)と、副次的に展示された照明器具数点のみであった。
 これはデンマーク家具デザインの黄金期(1940年代~60年代)に活躍した家具デザイナーに焦点を当てた展示構成であったことも影響しているが、デンマーク主要家具ブランドのカタログやウェブサイトのトップページをみても、やはり黄金期にデザインされた作品が大きく紹介されており、各ブランドにとってこれらの家具が製品ラインナップの構成上、重要な意味を持つことを示唆している。
 本研究ではデンマークの主要家具ブランド5社(フリッツ・ハンセン社、フレデリシアファニチャー社、カール・ハンセン&サン社、PPモブラー社、ワンコレクション社)を対象として2014年、2021年、2023年の製品ラインナップの構成に対する調査を行い、各社の特徴および方針を比較検証するものである。これにより20世紀中期に開花し、今なお受容され続けているデンマークの家具製造を担うデンマーク家具産業の現在地を捉えたい。



■報告と意見交換 デザイン実技教育における現状と課題

 意匠学会の研究発表にデザインに関する作品・制作・論考が少ない事が会員内で話題となり、先ずはデザイン教育を擁する大学での学部生の作品(課題やコンペ)・大学院生の修士作品とその指導を紹介し、デザイン実技の現状を報告する事によって意匠学会の活性化に貢献できるのではないかというねらいから、本企画に至りました。デザインを取り巻く現状は21世紀に入り大きく変化しています。内閣府からも、AI戦略、DX、ソサエティ5.0といった対応が求められ、研究や教育も必然的に変化を余儀なくされています。このような環境に則し、実作としてのデザインが課題とするテーマ、表現メディア(デバイス)、目的と手段の思考とリテラシー、実社会に適応可能なスキルなど、多角的なニーズを抱えるデザイン教育とは何か、受け取る側の学生の反応と成果はどのようなものか、リアルな学生の作品によって考察したいと思います。大学に求められるデザインの実技教育の実態を紹介し、ディスカッションによって新たな知見や見識を広げる試みを行います。