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第239回 意匠学会研究例会 発表要旨
■ 竈の意匠の多様性 ─社寺に備えた竈の類型的分析─
佐藤 悦子/京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科デザイン学専攻
本研究は日本に根づいた竈の形や構造、意匠を類型的に分析し、日本の台所文化における変遷と多様性の一端として位置付けしようとするものである。現在、竈は全国的に殆ど見ることはなくなったが、神社と仏閣の竈は創建当時のまま、もしくは焼失や取壊しされながらも修復をくりかえし、現存しているものが少なくない。それらは神への供物を調理する竈であり、神聖な場所として特別な意味を有している場合が多い。日本の台所文化として栄えた竈の普及は江戸時代後期に頂点を迎え、明治に入りガスが普及し始めると一般庶民の台所は竈からガス釡に変わっていった。台所における竈は創建当初から少なくとも江戸時代後期まで神仏に俸げるために台所では中心になって使用されていた。左官仕事で作る竈は何年も使用すると劣化は避けられず造り直して使うことを繰り返すため、原型のまま保存、使用されている例は少ないが、実測などのフィールドワークと文献資料の双方を検証しながら分析する。
竈の多様性やスケール感、時代の空気感を実質的に分析するために、調査対象として性格の異なる5つの神社と5つの仏閣を選んだ。文献だけではなく、実際に調査すると、その竈の多様性やスケール感、時代の空気感が如実に伝わってくる。神社には、神に捧げる供物を調理するための独特な意匠の竈が残っている。また、5つの寺においては仏に捧げるためにだけ存在している竈もあるが、それだけではなく寺の茶室に設えた竈や、寺で働く人たちの食事を賄うために設えた大きな竈もある。竈と神事・仏事を含めた日常生活との関係が、一つの生活デザインとして浮き彫りにされると考えられる。
江戸時代及びそれ以前における台所文化の中心的用途役割である竈の姿、形、意匠、作者の心象が、時代とともにどの様に庶民生活と関連しながら変遷していったのかを、古文書の文献調査及びフィールドワークを通してその多様性を明らかにする。
●10ヶ所の神社仏閣
1)西本願寺 京都市下京区 2)下鴨神社 京都市左京区 3)春日大社 奈良市春日町
4)岩清水八幡宮 京都府八幡市 5)法隆寺 奈良県生駒郡斑鳩町
6)今宮神社 京都市北区紫野 7)瀧本坊 松花堂草庵 京都府八幡市
8)高台寺 京都市東山区 9)北野天満宮 京都市上京区馬喰町
10)大徳寺 京都市北区紫野大徳寺町
■ 良いデザインと評価の問題
高安 啓介/大阪大学大学院文学研究科
デザインの創造をめぐる議論はいま活況を呈している。イノベーションの掛け声のもとデザイン思考がよく言われている。これにたいして、良いデザインをどう評価するのかについての考察もまた劣らず重要なはずだが、基礎考察はまだ十分に展開されてないようにみえる。そこで、創造の問題とはじつは同じコインの裏側である評価の問題に光を当て、考察の不均衡をいくらかでも解消したい。本発表はすなわち、良いデザインとは何かについて反省し、デザインの評価をめぐる問題をあきらかにする試みであり、次のように議論を進めていく。第一に、評価の「基準」について論じる。良いデザインを判断するときの基準として、実用価値・倫理価値・美的価値について検討をおこなう。第二に、評価の「制度」について論じる。もともと、近代デザインの理念にかなった製品を奨励する制度として、1950年代に各国でデザイン賞が設けられたが、現在まで続く制度がどのように変化してきたかに注目する。第三に、評価の「対象」について論じる。モノからコトへの変化はすでに言われて久しい。現代では、製品であれ、情報であれ、人間であれ、独立した個体どうしの関係そのものがデザインされ、評価されるようになっている。第四に、評価の「関心」について論じる。商業主義に乗らないデザインとして、社会問題の解決の目指す方向と、問題の解決よりも問題の提起をねらう方向があることを確認し、反商業主義の立場から、良さの意味とともに評価のありかたを問い直す。第五に、評価の「問題」として最初の投げかけに戻る。すなわち、デザインの創造をめぐる議論がいま活況を呈しているのなら、創造活動にたいしてデザインの評価がどのような役割を果たしうるのだろうか。良し悪しの判断はたしかに、行き過ぎた考えへの抑圧となる場合もあるが、新たな挑戦への刺激となりうる可能性をしめすことで、デザインの評価の問題にたいする関心をうながしたい。