第212回意匠学会研究例会 発表要旨

■「滋賀県における琵琶湖モチーフデザインによるブランディングの意義」
柳橋 達郎/京都工芸繊維大学

 「琵琶湖」は滋賀県の象徴的存在であり、滋賀県独自の歴史や文化を育み、様々な自然の恩恵を人々に与え、またその生活を支えてきた。それは滋賀県の代名詞とも言える。こうした日本一の湖である「琵琶湖」を抱えながらも滋賀県はブランド力という点で非常に低迷した状態にある。2011年に実施された地域ブランド調査(ブランド総合研究所)において、その魅力度は全国38位という結果であった。隣接する京都府は全国2位という圧倒的なブランド力を誇示している一方で、今一歩、滋賀県はその魅力を全国へ発信できていない現状がある。  滋賀県が現在使用しているシンボルマークは琵琶湖のシルエットとともに「Mother Lake」というコピーを重ね合わせ「母なる湖・琵琶湖と共生していく県の姿勢」を強く打ち出したものになっている。また、滋賀県観光事業審議会が平成21年に発表した「新・滋賀県観光振興指針 近江の誇りづくり観光ビジョン」の基礎にあるのは資源としての「琵琶湖」をいかに活用し、アピールしていくのかということである。また、びわ湖ホール、琵琶湖ホテル、大津びわこ競輪場、琵琶湖博物館、立命館大学びわこ・くさつキャンパスといったように、施設のネーミングを挙げていっても、いかに滋賀県において「びわこ」というワードを冠することが一つのブランディングとなるのかということがわかるであろう。  このように滋賀県においてのブランディングを押し進める時に欠かせない要素として「びわこ」は存在する。その琵琶湖をデザインモチーフとして活用した事例から、そのデザイン的特徴の分析やそこに見られるイメージ戦略やブランディングについて考察を試みたい。そして、滋賀県の今後の地域デザインを考えていく上での一つのヒントとしていきたい。



■「ファッションにおけるサステナブル・デザイン」
成実 弘至/京都造形芸術大学

 サステナブル・デザインへの関心が高まっている。しかし、ファッションの分野ではまだ本格的な動きになっているとは言い難い。本発表では、繊維・服飾分野におけるサステナブル・デザインの現状について、英米の状況を踏まえ、オーガニックコットンや再生可能繊維などののわが国での取り組みを見た上で、ファッションにおけるサステナブル・デザインにおいて何が問題となっているのか、サステナビリティとどう関わっていくのか、その可能性について考察する。



■「土田麥僊の人物画について―肖像性と象徴性をめぐる考察―」
上田 文/京都工芸繊維大学

 近代京都で活躍した日本画家、土田麥僊(1887-1936)は、舞妓を得意とした画家として知られるが、鏑木清方や上村松園、伊藤深水のように「美人画家」とされていない。  麥僊は、舞妓図について「ありきたりな美人画にならない」ことをねらいとしており、意識的に「美人画」とは一線を画す制作を目指していた。大正8年(1919)に描いた「三人の舞妓」では「一の美しい物体に対すると同様の感じを持つて描いていくのです」と語っている。また渡欧後の大正13年(1924)に描いた「舞妓林泉図」は濁った色による陰影を排し、色彩の形体で造形を追求してい る。さらに昭和初年の「明粧」(1930年)や「平牀」(1933年)では白い色調と細い描線で全く人間的肉体を感じさせない舞妓や妓生を描いている。麥僊作品の特異性は晩年になるほど顕著である。  麥僊は制作において必ず自分のイメージに適うモデルを使用していた。これまでの調査において、麥僊の写生からはモデルの個別的特定性を示す「肖像性」を見出すことができるように思われる。その一方で、理想の美を求めた麥僊の本画は舞妓の「象徴性」が強調されているといえる。  本発表では、モデルの判明する作品を取り上げ、その個別的「肖像性」について実際的に検証を行う。他方、「象徴性」については、麥僊がみずからの制作の参考にしたと思われる平安時代の仏画や天平時代の仏像彫刻などとの関連について検討してみたい。これまで麥僊の制作には西洋画からの影響や日本の伝統絵画でも桃山時代の影響が指摘されてきたが、麥僊が注目した古代の仏画への関心を 見過ごすことはできない。  本考察は、麥僊の人物画に見られるモデルの「肖像性」と、普遍的な「象徴性」という一見相反する造形上の両義的側面から本質に迫り、近代日本美術における麥僊作品の特異性を明らかにしようとする試みである。