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第208回意匠学会研究例会 発表要旨
■「京都高等工芸学校生徒作品における西洋デザインの受容と伝統的デザインの変容」 岡 達也/京都工芸繊維大学
日本、特に京都には数多くの伝統工芸が存在しており、中には100年を超えて存続している工房も 少なくない。その長い期間を経て、技術、意匠ともに洗練されてきた。伝統工芸品における技術・意匠は 日本のものづくりの根源といっても過言ではない。 しかし、現代において、伝統工芸品を制作する工房の多くが存続を危ぶまれている。その原因は、 技術の進歩によるものづくりのシステムや社会情勢の変化などが考えられるが、デザイン的側面がはらむ 問題も大きいと考える。本発表では、明治時代以降、伝統工芸品の制作の現場が、伝統的なデザインと 新たに受容することになった西洋デザインとにどのように対応していたのかを解明する作業の一貫として、 伝統産業界を担う人材養成の場におけるデザイン教育の在り方を分析する。 明治以降、日本は産業革命を終えて近代工業国家となっていた欧米諸国に追いつくための殖産興業政策の 一環として明治以前から国内各地にある、工芸品の輸出に注力していた。そこで、重要視されたのが 工芸品の図案であり、今日におけるデザインであった。京都工芸繊維大学の前身である京都高等工芸学校は、 そのような状況を受けて、1902(明治35)年に図案教育の専門機関として設立された。 本発表では、京都工芸繊維大学美術工芸資料館に所蔵されている開校初期から大正期の京都高等工芸学校 生徒作品を対象にして、当時の図案をモチーフ、形態、色彩など、グラフィックデザインの側面から分析し、 その特色について検討する。図案教育の現場における図案の変遷と傾向の分析を試みることで、 西洋デザイン受容の実態と、それが伝統的なデザインに与えた影響を指摘するとともに、工芸品の制作の 現場において西洋のデザインと伝統的なデザインの乖離が、現在の伝統工芸低迷の原因のひとつとなっている 可能性を明らかにする 。
■ 「デジタルファブリケーション研究のフレームワーク~ 《共創のかたち:デジタルファブリケーション時代の創造力》展報告から」 森山 貴之/京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
近年、設計支援ツールやラピッドプロトタイピングといった生産技術の飛躍的発展は、ものづくりの あり方を大きく変えようとしている。MITのニール・ガーシェンフェルドが指摘するように、 この技術革新は、離散的な(デジタル)物質と、ネットワーキング、そしてコンピュテーション(演算) としての造形という概念によって実現したといってよい。このデジタル化された生産技術を総称して ところでデジタルファブリケーションは、その技術革新が社会的なレベルの革新を期待している点に 注目できる。それは、技術の簡易化および汎用化が誰でも利用可能な制作環境を提供し、さらにウェブ上での 設計情報の公開が技術知識を交流させイノベーションを促進させるというパブリックなものづくりへの 期待である。そしてその先に、市場経済下のものづくりとは異なる、ネットワーク(集合知)と生産システム (場/手段)を統合した「共創」のプラットフォームを見て取るのである。 ただ、こうしたビジョンが単なる技術的過渡期の見せる夢なのか、次代のものづくりのあり方なのかを 見極めるためには、まだまだ試行と研究を重ねなければならないだろう。しかるに、共創がどのような 条件下でどのような形で行われるのか、コンピューテーションとしてのデザインにおいてクオリティをどう 設定するのか、あるいはどのような職能がありえるのか、市場経済に最適化された生産システムとしての マスプロダクションに替わるプロダクションシステムをどのように普及させるのか等々、 検討すべき課題は多い。さらには、こうした実践を後支えする理論的視座がまだ十分に 確立していないことも指摘できよう。 このような課題を考えるべく京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAにて10/1より11/13まで 開催されるのが、《共創のかたち?デジタルファブリケーション時代の創造力》である。同展では、 FabLabやMAKE、PONOKOといったサービスやコミュニティ、SketchChairやOpenDesignProject、 漆工におけるデジタルファブリケーションの応用など国内外の研究プロジェクトを紹介する。 本発表では同展企画者として報告を行いつつ、デジタルファブリケーション研究の理論的フレームワークを 検討してみたい。