第204回意匠学会研究例会 発表要旨

■沿岸部斜面地集落の公私境界部における敷地利用形態について
宮崎 篤徳/大阪芸術大学

 わが国には大小さまざまな斜面地集落が存在する。そもそも、日本の国土の70% が「山地」と「丘陵」である以上、傾斜地に住むということは必然であったのであ ろう。斜面地集落での生活は大変な困難を伴うが、傾斜地での暮らしをより良いも のにしようとする模索と行動の結果として、各地に、それぞれに特徴をもった斜面 地集落がストックされている、といえる。
 しかし、現在、斜面地集落の置かれている現状は決して楽観視できるものではな い。若い世代の流出による過疎化とそれに伴う高齢化その他、さまざまな問題が生 じている。集落内に密集して建つ住居群や、その隙間に急傾斜を伴いつつ張り巡ら された「みち」・「通路」はかつての賑わいや近隣との密な付き合いを示す一方で、 近年の車中心のライフスタイルや、近隣との付き合い方の変化によって、世帯数・ 人口の減少を助長する要因ともなっている。
 そこで、本発表では、瀬戸内海沿岸に点在する斜面地集落を対象として斜面地集 落の分布状況、傾斜度、規模、平面形状などを確認し、本発表者が現地調査をおこ なった3地域8集落について敷地の所有・利用形態の実態を確認し、公的空間と私的 空間との相互利用のあり方について考察する。



■市民力を活かすまちづくり:「歩きやすい道」をめぐる取組み
田村 剛/立命館大学大学院

 「『歩くまち・京都』憲章」が京都市で策定されたように、歩行空間のユニバー サルデザイン化は、まちの活性化にも繋がる、これからも重要な事業であると考え られる。その歩行空間の整備・改善に重要な現状の詳細な情報は、実際に利用して いる市民が握っていると考えられるが、それらを効率的に収集する手段が整備され ているとは言い難い。歩行空間を利用する市民の受益者負担として情報提供を受け 入れる環境を整備し、実際の利用者の意見収集を進めることは、京都市が標榜する 「共汗(市政と市民が共に汗をかき協働する)」によるまちづくりを拡大していく 手段にもなるだろう。
 発表者は、現在、「京都市未来まちづくり100人委員会」の「歩きやすい道チー ム」に所属し、市民参加型のまちづくりに取り組んでいる。私たちのチームは、歩 行空間のユニバーサルデザイン化を実現するために、これを妨げる“バリア”の所 在について、市民からの投稿による現状把握と、取得した全情報の公開を第一の活 動目標に掲げた。その目標を達成する一つの手段として、位置情報、視覚的情報、 用感を、インターネットを介して収集・公開する取り組みを行っている。一般に、 市民からの情報収集手段のひとつである申し立ての窓口は主に区役所が担っている が、そのような時間的・場所的制限がある現状では、情報提供者は限られ、その内 容も選択されてしまう可能性がある。市民が保有している潜在的な情報を収集する ためには、「いつでも、どこからでも」情報を提供できる環境が必要である。イン ターネットは、ユニバーサルデザインの効果についての情報を収集・公開する拠点 として、さらに、ユニバーサルデザイン化を必要とする対象の抽出手段、あるいは ユニバーサルデザインの維持管理状態把握手段として活用することが期待できるも のでもある。
 市民参加の自由度を上げ、壁を取り除いていくことは、これからのまちづくりに とって重要な課題となるだろう。本報告では、こうした課題の解決手段の一例とし て「歩きやすい道チーム」の取り組みを紹介する。