第249回 意匠学会研究例会 発表要旨

■江戸時代の茶道および香道に見られる花結びに用いられた花卉モチーフについての検討
矢島 由佳/大阪大学大学院

 花結びとは、草花や虫をあしらった結びで、長緒結びとも称され、香道だけでなく、茶道でも用いられる。それらは概ね、茶器や香道具等をいれる袋の上に結ばれ、装飾の一部として用いられる。花結びの鑑賞者は、鑑賞者の有する季節等の概念に関する記憶を元に、紐という線から作り出される抽象化された花の形に季節感等を見出す。単純化されたシンボルとしての季節の花に関する文化的言説を理解できて初めて、花結びで表される花を理解できるといえる。花結びは今日もその華やかな見た目から、多くの人を魅了し続ける。その一方、断片的な資料しか残されていないため、その研究は十分になされていない。図絵としての花結びの記録は江戸時代中期以降にしか見られず、その多くは、茶道および香道で用いられたものである。
 本研究は、袋に結ばれた花結びをその考察対象とし、これまで断片的に論じられてきた茶道および香道で袋に結ばれる結びとしての花結びの歴史的事実を再検討し、その文化的発展を体系的に明らかにすることを目指す。具体的には、花結びがどのように享受され、花結びに関する視覚的記録が残るに至ったのかについて概観する。その上で、花結びに用いられる「花」に着目し、茶道および香道で用いられる花との比較を行い、そこにどのような関係性があるのかを明らかにすることを目指す。まず、茶道および香道で飾ることが禁じられてきた花の種類と花結びに用いられたモチーフとしての花の比較を行う。そして、江戸時代の花卉文化にも着目し、数多くの花の改良が行われてきた中、愛好者を多く集めた花と花結びに用いられた花モチーフとの関係性についても考察する。