第236回 意匠学会研究例会 発表要旨

■ 障害者福祉における「ソーシャルアート」の意味再考─デザインの視点から
美馬 智/京都工芸繊維大学大学院博士後期課程デザイン学専攻

 2016年10月、「ソーシャルアート 障害のある人とアートで社会を変える」(学芸出版)が発行された。奈良市に居を構え障害者の芸術文化表現活動の支援を中心に様々な取り組みを行う(財)たんぽぽの家が、全国各地の施設や事業を取り上げ、当事者からの寄稿という形でまとめた一冊である。近年、アートという言葉は日本の障害者福祉と密接な関係を築き、ノーマライゼーションに向けた手段として、支援者や、時に行政の手によって拡大・利用されてきた。たんぽぽの家もその筆頭で、90年代中頃から「エイブル・アート・ムーブメント(可能性の芸術運動)」を提唱し、日本での障害者芸術の認知を押し広げてきた。その影響は、この新刊の企画と構造からも十分伺い知ることができる。
 「ソーシャルアート」という言葉は巻頭で以下のように定義される。
 『「障害」という窓を通して、既成の概念を疑い、社会を変えていく、アートの実践が、本書における「ソーシャル・アート」である。』それまでアートという言葉の射程の大方が、絵画や彫刻など目に見える「作品」であったのに対し、「ソーシャル・アート」はその枠におさまらない。副題の通り、ここでのアートは社会に働きかける「手段としてのアート」であり、言い換えれば、その過程における人対人の関係性の美の構築を標榜する「アートを手段としたデザイン」である。こうした新しい流れの中で、大きな言説や言葉の氾濫に食傷気味な人たちも今や出てきている。現に、「ソーシャルアート」に寄稿もしながら、アートという言葉を敢えて避け独自の取り組みを展開する団体もいる。障害者福祉の本懐と関係性のアートはいかに溶け合うことができるか。
未だ曖昧な定義で概念構築の途上である「ソーシャルアート」という言説に対して、それぞれの事例をデザインという規点から紐解き、言葉の上滑りの問題を吟味しながら、歴史的・客観的な意味再考を試みる。



■ 19世紀アメリカのリフォームドレス運動について
─新聞『シビル』の記事から─

谷 紀子/京都女子大学大学院家政学研究科生活環境学専攻 博士後期課程

  西洋では、19世紀の女性の服飾は、ウエストを細くコルセットで整えて、広がった長いスカートを広げたスタイルが主流であった。しかし、アメリカ合衆国で、女性のリフォームドレス運動がおこり、短いスカート丈のチュニックドレスとゆったりした「パンツ」と呼ばれるズボンをはいたスタイルが提案された。アメリア・J・ブルーマー(Amelia. J. Bloomer)(1818年-94年)の名前から「ブルーマー」(the bloomer)と呼ばれるこのスタイルはブームとなり大流行し、欧米の女性のファッションに影響を与えるが、その後定着することはなかった。
 このリフォームドレス運動については、これまでの研究に関して、その多くはブルーマーに注目されているものがほとんどであるが、アメリカには彼女だけではなく他にも幾人かの活動家たちがいたことはあまり語られてこなかった。
 本発表では、その活動家の一人であり、実際にブルーマー・スタイルである「リフォームドレス」を日常着にしていたリディア・セイヤー・ハスブルック(Lydia Sayer Hasbrouck)(1827年-1910年)に注目する。彼女はニューヨーク州で医学を勉強した後で、記者となり、リフォームドレス運動に関わった。そして日本ではほとんど知られていなかった新聞『シビル』(“The Sibyl”)(1856年-64年)を創刊した。新聞の内容はリフォームドレス運動と女性の権利運動の推進のための記事が中心であり、女性たちにこのスタイルの服装を勧めており、読者からの手紙や質問に関しての回答等の様々な記載がある。
 リディアの積極的な活動の軌跡とこの新聞『シビル』の記事を読んで、リフォームドレス運動という社会運動の詳細と、このスタイルを取り入れた様々な団体や人々の反応の諸相の分析を試みる。